熱海土石流訴訟、遺族の悲痛な証言が続く 行政の「責任たらい回し」に怒りの声
静岡県熱海市で2021年7月に発生した大規模な土石流災害を巡り、遺族や被災者が県や市、盛り土周辺の土地の前・現所有者らに損害賠償を求める訴訟の証人尋問が21日、静岡地裁沼津支部(前田英子裁判長)で行われました。この日は被災者や遺族ら9人が出廷し、行政の対応に対する厳しい批判と、失ったものへの深い悲しみを証言しました。
「母の遺体は正視できる状態ではなかった」 遺族の悲痛な思い
土石流で母・陽子さん(当時77歳)を亡くした瀬下雄史さん(58)は、「熱海市盛り土流出事故被害者の会」の会長として原告団の先頭に立ってきました。瀬下さんは証言で、「母の遺体とは発災から3週間後に対面したが、正視できる状態ではなかった」と振り返り、その時の衝撃を語りました。
さらに、「被告全員が責任をたらい回しして腹立たしい。行政の『不作為』ではなく『過失』だ」と強調し、県と市が責任の押し付け合いを続けてきた姿勢を強く批判しました。行政の対応が適切であれば、被害を軽減できた可能性があるとの思いを強く訴えました。
避難指示の遅れを指摘 「もっと多くの命が救えたはず」
被災者で「熱海市伊豆山土石流災害真相究明の会」共同代表の太田滋さん(69)も証言台に立ちました。太田さんは、発災当日に「伊豆山で土石流があった」という内容の市の防災放送を断片的に聞いた妻に促されて避難し、九死に一生を得た体験を明らかにしました。
「もう少し早く行政が防災無線やメールなどで避難を呼びかけていれば、もっと多くの人が助かった」と語り、自宅や思い出の品などすべてが流された喪失感の大きさを訴えました。行政の初期対応の遅れが、被害拡大につながった可能性を示唆しました。
「人生が変わった」 被災者の深い喪失感
20人が犠牲になった逢初川上流部に住んでいた女性(58)は、自宅1階に土砂が流れ込んだ体験を証言しました。「大切な人たちや思い出を失い、人生が変わった。命は助かったが、希望を見いだすことができない」と語り、災害がもたらした精神的・物理的な打撃の大きさを強調しました。
多くの被災者が、単なる物的損害だけでなく、人間関係や生活の基盤を根こそぎ奪われたことによる深い喪失感を共有していることが浮き彫りになりました。
行政側の反応と今後の見通し
証人尋問後、報道陣の取材に応じた県の天野朗彦参事は、「原告のみなさんの悲しみや痛みが全く癒やされていないと感じた」と述べ、遺族らの心情に理解を示しました。市の藤間泰弘総務課長は、証言者が防災放送の聞こえづらさや避難指示の遅さを共通して指摘した点について、「対応を検討するが、改善しなければならない」と答えました。
2月に始まり計6回に及んだ証人尋問はこの日で終了しました。原告側の弁護団によると、6月下旬に責任論、9月上旬に損害論をまとめ、9月17日に結審する見通しです。前田裁判長は27年3月末までに判決を出す方針を示しており、損害賠償請求訴訟は発災から5年を経て大詰めを迎えています。
この訴訟は、土石流災害の責任の所在を明らかにするとともに、今後の防災行政の在り方にも大きな影響を与えることが期待されています。遺族や被災者の声が、行政の改善につながるかどうかが注目されます。



