量子科学技術研究開発機構(量研機構)の研究グループは、陽電子放射断層撮影(PET)の分解能を理論限界に近づける新技術を開発したと発表した。この技術により、マウスの小さな脳の細部を高精細に観察できるようになり、創薬研究の効率化が期待される。論文は5日、学術誌『ジャーナル・オブ・ニュークリア・メディシン』に掲載される。
PET技術の限界を突破
PETは、特定の細胞や組織に集まる放射性薬剤を体内に投与し、その放射線を検出して画像化する手法で、がんや認知症の診断、医学研究の動物実験などに広く用いられている。しかし、従来の小動物用PET装置では、最高でも0.7~0.8ミリ程度の分解能しか得られず、約1センチのマウスの脳内部を詳細に観察することは困難だった。
検出器の3層構造が鍵
分解能を制限していた原因の一つは、検出器の厚みにより斜め方向からの放射線の検出位置が浅部と深部でずれ、画像がぼけることだった。そこで、量研機構のカン・ハンギュ主任研究員(物理工学)らは、異なる深さで生じる信号を区別できるよう、検出器を3層構造に改良。この新検出器を組み込んだ装置では、分解能が0.5ミリ以下に向上し、理論的限界に近づいた。実際に、マウスの脳内の視床下部などの小さな器官を明瞭に描出することに成功した。
実用化と将来の応用
研究グループを率いる山谷泰賀・先進核医学基盤研究部次長(物理工学)は、「比較的短期間で実用化できる」と見込んでおり、将来的には医療用PET装置への応用も目指している。
大阪大学の渡部直史特任准教授(核医学)は、「医療用PETに比べ、小動物用PETは近年進化が遅れていた。マウスの脳の微細な構造を正確に描出できるようになったことで、脳疾患の解明や薬剤評価が大きく進むだろう」と評価している。



