岐阜薬科大学の研究チームが、iPS細胞を活用して作製した「ミニ臓器」を用い、薬の効果や安全性をより正確に評価する技術の開発を進めている。この技術は、従来の動物実験では再現が難しかった人体に近い環境での薬効評価を可能にし、創薬プロセスの効率化に貢献すると期待されている。
「ミニ臓器」オルガノイドとは
オルガノイドは、iPS細胞などを組み合わせて臓器の構造や機能を小さく再現した「ミニ臓器」である。実験室で人の体の一部を再現することで、薬の効果や毒性をヒトに近い環境で調べることができる。岐阜薬科大学生体再現学研究室の久世祥己講師(35)は、「人の細胞を直接使って薬を評価するのは倫理的に難しい。そこで、iPS細胞から作ったミニ臓器を実験台として活用する」と説明する。
ミニ肝臓の作製プロセス
研究チームは特に肝臓に着目する。皮膚や血液由来のiPS細胞から血管などの複数の細胞を分化させ、それらを組み合わせることで直径1ミリ未満の「ミニ肝臓」を作り出す。これをゲル状の培地に置くと細胞が自律的に集まり、約2~3週間で立体的な構造を形成する。このミニ肝臓に脂肪酸を加えると脂質が蓄積し、脂肪肝の状態を再現できる。久世氏は「いわば不健康な食生活をした肝臓のモデル。薬を投与して脂質が減るかどうかを調べることで、治療薬の候補を効率的に探索できる」と述べる。
従来の動物実験との違い
従来の創薬プロセスでは、マウスなどの動物実験が中心だった。しかし、動物とヒトでは生理学的な違いがあるため、マウスで効果があってもヒトでは効かない、あるいは予期せぬ副作用が生じるケースが少なくなかった。久世氏は「初期の段階からヒトの臓器で評価できれば、無駄な開発を減らせる可能性がある」と強調する。ミニ臓器を用いることで、よりヒトに近い環境で薬効や毒性を評価でき、臨床試験での失敗リスクを低減できる。
課題と今後の展望
ミニ臓器の研究はまだ発展途上である。実際のヒトの肝臓に比べてサイズが極めて小さく、機能も未熟で、酵素活性は本来の数分の一から100分の一程度にとどまる。研究チームは、より本物に近い臓器を目指して、細胞の成熟度や組織構造の改善に取り組んでいる。将来的には、創薬だけでなく再生医療への応用も視野に入れる。久世氏は「究極的には本物の臓器を作ることが目標。臓器移植を待つ患者に対してドナーが不足する現状を踏まえ、iPS細胞から臓器を作れれば多くの人を救える可能性がある」と語る。
「ミニ臓器の精度を上げて、誰もが使える研究基盤にしたい」。久世氏の言葉には、医療の未来を変えようとする強い決意が込められている。



