様々な臓器や組織に変化する能力を持つiPS細胞に関する国別の論文数で、日本は米国、中国に次ぐ第3位であることが、読売新聞が入手したデータから明らかになった。日本では2026年秋にも、iPS細胞から作製されたパーキンソン病治療用製品が世界で初めて実用化される見通しであり、これまで世界の研究を先導してきた。しかし、近年の論文数に着目すると、米国や中国との差は拡大しており、日本の研究力が伸び悩んでいる実態が浮かび上がった。
世界上位5カ国のiPS細胞論文数の推移
特定分野における国別の論文数は、各国の研究力を評価する重要な指標である。読売新聞は、専門家による審査を経た1億本以上の論文データベースを運用する学術出版大手のエルゼビア(本社・オランダ)から、論文数上位15カ国のデータ提供を受け、専門家への取材を基に分析を実施した。
iPS細胞研究の本格化以降の論文総数
iPS細胞の研究が世界的に本格化した2015年から2024年までの10年間で、世界全体の関連論文数は合計3万2606本に達した。国別では、米国が1万2203本で最多、中国が5162本、日本が3876本と続く。以下、ドイツ、英国の順となっている。
2015年と2024年に発表された論文数を比較すると、日本は15年の約1.5倍に増加したのに対し、米国は約2倍、中国は約3倍となっており、日本を上回るペースで研究力が向上していることが示唆された。2024年の1年間の論文数に限れば、日本はドイツに抜かれ、英国との差も縮まっている。
研究の質の評価
研究の質の高さで世界トップクラスと評価される論文(トップ1%論文)の数では、日本は56本にとどまった。これは米国の約8分の1、中国の半分以下であり、英国、ドイツに次ぐ5位である。さらに、日本の全論文に占めるトップ1%論文の割合は1.5%で、15カ国中最下位という結果になった。
iPS細胞は、京都大学の山中伸弥教授が2006年にマウスの細胞から初めて作製に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した画期的な技術である。政府はiPS細胞を用いた再生医療の産業化を目指し、2013年度から10年間で総額約1100億円を投じて重点的に支援してきた。2026年3月には、iPS細胞から作製された2つの再生医療製品の製造販売が、世界で初めて条件・期限付きで承認されている。
医薬品の研究開発に詳しい東京科学大学の仙石慎太郎教授は、「論文数で見れば日本の研究は世界有数である。国が集中支援した結果、再生医療や産業応用の面では米国に匹敵する成果も出ている。しかし、研究の質では世界に見劣りすると言わざるを得ず、日本はiPS細胞の長期的な研究力や技術革新の力が低下している可能性がある」と指摘している。
データの分析方法
2015年から2024年に各国の研究機関が発表した論文について、エルゼビア社がiPS細胞に関連するキーワードで検索して抽出した。1本の論文に複数の国の研究機関が関与した場合は、それぞれの国の論文として集計した。論文数の上位15カ国について、特に質が高いと評価された論文(トップ1%論文)数や国際共同研究の論文数などのデータを整理し、読売新聞が分析した。



