忍野八海で投げ銭問題が深刻化 水質悪化の懸念と村の苦悩
世界文化遺産「富士山」の構成資産として知られる湧水池「忍野八海」(山梨県忍野村)で、観光客による硬貨の投げ込みが深刻な問題となっています。訪日観光客らが「幸運を呼び込む」などの誤解から池に硬貨を投げ入れており、これまでに回収された硬貨は約5万枚に上ります。透明度の高さが魅力の池ですが、池底は硬貨で覆われて乱反射を起こし、腐食による水質への影響も懸念されています。
観光客の誤解と環境への影響
忍野村企画課によると、池への投げ銭が確認されるようになったのは、富士山が世界文化遺産に登録された2013年以降です。欧米やアジアなどの外貨も含まれており、村は大半が訪日観光客によるものとみています。特に被害が顕著なのは、最大の湧出量を誇る「湧池」です。深さ4メートルの池底まで見える透明度が特徴ですが、底が無数のコインで銀や銅色に輝いて見える状態で、腐食した硬貨も多く、水質悪化のリスクが高まっています。
米国からの訪日客(44歳)は「こんなに硬貨が投げ込まれているのに人工の池ではないのか」と驚きを隠せません。「米国では願いを込めて噴水や人工の池に投げ込む風習はあるが、自然の池に投げ込まれているのは残念だ」と話し、文化の違いによる誤解を指摘しました。ローマの観光名所「トレビの泉」のように、願い事の伝説に基づく投げ銭が忍野八海でも広がっていますが、同課の井原悠紀主幹は「忍野八海ではそういった伝承はないのですが……」とため息をつきます。
村の対策と課題
村は2016年、初めてボランティアのダイバーらの手を借り、湧池に潜っての回収作業を5回実施し、計1万8000枚以上の硬貨を拾い出しました。投げ銭禁止を呼びかけるため、英語や中国語など4か国語で書かれた看板も設置しましたが、投げ銭は止まらず、この10年で回収された硬貨は計約5万枚に達しています。「拾っては投げ込まれる。いたちごっこが続いている」と井原主幹は語り、対策の難しさを強調します。
池は国の天然記念物にも指定されており、硬貨の投げ込みは文化財保護法に抵触する恐れがあります。しかし、訪日外国人客らへの啓発は浸透していません。投げ銭を食い止めるため、村は今年3月、湧池周辺にさい銭箱に見立てた箱を設置する方針を決めました。投げ銭の代わりに「奉納」してもらうことで、池の景観に悪影響を与えていた硬貨を、環境保全の「協力金」に生まれ変わらせることを狙っています。
環境保全への取り組み
村はまた、箱の設置や水質保全の資金確保のため、ふるさと納税型のクラウドファンディングを実施しています。ふるさと納税ポータルサイトで、夏頃まで寄付を募り、環境保護活動を強化する計画です。井原主幹は「清らかな水と美しい景観を後世に守り継いでいくためにも、投げ銭を少しでも減らしたい。環境保護に目を向けてもらうきっかけにもなれば」と期待を込めます。
忍野八海は、富士山の伏流水が水源とされる八つの湧水池の総称で、かつては富士山を信仰の対象とする「富士講」の霊場としても栄えました。天気のいい日には、池越しに霊峰も一望でき、近年は国内外から年間数百万人が訪れる人気の観光地となっています。しかし、観光客の増加に伴う環境負担が新たな課題として浮上し、持続可能な観光の在り方が問われています。



