「経済効果はほぼゼロ」でも海辺の貸本屋、読書離れに抗う76歳船長の思い
「経済効果はほぼゼロ」海辺の貸本屋、読書離れに抗う

三河湾を望む愛知県西尾市東幡豆町に、週に1度だけひっそりと営まれる貸本屋がある。海のすぐそばに立つ密漁の監視小屋を活用した「えほんの舟」だ。その名の通り、潮騒が響きさざ波が見える店内は、船の中にいるかのような雰囲気。読書離れが叫ばれる中、店主は「子どもたちに、活字の海に乗り出してほしい」と願いを込める。決して大きくない店に込められた思いは、海のように広く深い。

海を見渡す特等席で絵本に触れる

白く塗られた階段を上った先、6畳ほどの空間に約100冊の絵本が並ぶ。窓辺のベンチは、海の表情を一望できる特等席。潮の香りを感じながらページを繰ることができる。周囲に大型書店がないこの土地で、本に触れることができる貴重な場所でもある。

「小屋の中から見えるのは全部、海。まるで船に乗っているみたいでしょ?」。経営者で店主の「キャプテン寅」こと白井鶴七さん(76)が力を込める。干潮時に湾内の海底が現れて道のようになる地形「トンボロ」が店の目の前に広がる。「気持ちが良い眺め。海も本も好きだから、この場所で店を開こうと決めた」と語る。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

海と本への思いが交差する人生

白井さんは浜名湖に近い静岡県新居町(現湖西市)で生まれ、横浜市で育った。父親は遠洋漁業の船乗りで、「横浜の港によく見送りに行っていた」と振り返る。小学1年の時、担任の先生から伝記を1冊もらった。「どんな本かは覚えていないけど、うれしくて。明治生まれの父はプレゼントなんてくれたことなかったから、余計に」。この経験が海と本への思い入れを強くした。

30代半ばに家庭の事情で山あいの愛知県東栄町へ移住。隣の新城市でギャラリーとカフェを開き、蔵書の文学作品や児童書を置いた。2023年ごろ、西尾の知人からトンボロの存在を知らされて興味を抱き、東幡豆の海岸でコーヒーハウスを開業。その際に小屋の存在を知り、貸本屋も開こうと思い立った。

読書離れへの危機感

この考えの背景には、深刻な読書離れがある。「本を読めば、江戸時代でも宇宙でも、現実では行けない所に行ける。そして自分が主人公になれる」。楽しさに満ちた本を読む人がどんどん少なくなっていくことが、悲しかった。「本は苦手でも、絵本なら読めるはず。本の中に入り込む感覚を感じるための第一歩になれば」と願う。

経済効果はなくても、精神的な豊かさ

地元の漁協と掛け合って小屋を無償で借り受け、自身の蔵書を並べて2025年5月29日に貸本屋をスタート。1年たった現在も「もっと小屋を整えようと思って」と、営業時間中に自ら棚の増築に精を出す。

知名度が高いとは言えず、来店客は月20~30人ほど。「ほとんどの人が、ここで読んで帰っていく。今年4月に、貸し出しの第1号があったよ」と白井さん。「経済的効果はほとんどない店だけど、精神的な豊かさがあるんだ」と「老船長」は朗らかに笑う。

貸本屋は、前島市場(愛知県西尾市東幡豆町中柴86)のすぐ西、堤防の角にある。営業は木曜の午前9時から日没ごろまで。開店日には原則、店のインスタグラム(@ehonnohune)で写真が投稿される。本を借りる際は直接、店で白井さんに確認が必要。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ