ふだんから現代美術寄り、すなわち先端を行くアートを多く取り上げる筆者が、今回あえて中央アジアの手仕事を題材に選んだのには、深い理由がある。本展では、中央アジアに暮らす民族のうち、特にウズベクの女性たちが手掛けた刺繡布と、トルクメンで魔除けなどの目的で装飾された銀製ジュエリーが展示されている。筆者が特に心を引かれたのは、前者の色彩豊かで抽象的ながら、手仕事の跡がそのまま残された文様の世界である。
ソ連時代の抑圧とアヴァンギャルドの誕生
中央アジアはかつてソ連の一部であった。ソ連は革命によって生まれた社会主義国家であり、民族的なもの、伝統的なもの、宗教的なものを否定し、科学と生産性を優先した。そのため、これらの刺繡やジュエリーも等閑視されるようになった。しかし、ロシア革命によって芸術界に生まれたロシア・アヴァンギャルドは、ブルジョア的な具象美術を断罪し、抽象の世界を重視した。そのため、中央アジアの装飾群が持つ伝統的な抽象性とアヴァンギャルドは、一見相反するようで実は相性が良く、特にウズベクでは「ウズベク・アヴァンギャルド」と呼ばれる特異な前衛美術が生まれた。
辺境に残った前衛の精華
スターリンがレーニンを継ぎアヴァンギャルドを否定した後も、モスクワからの物理的な距離ゆえに辺境(現在のような通信技術は皆無であった)に留まったウズベクでは、1930年代初頭までアヴァンギャルド芸術が存続し、最終的には粛清されるものの、一時は最大の精華とも言える時期があった。本展を筆者はそのような視点で観た。特に、ウズベクが残したこれらの刺繡が、同地のアヴァンギャルドにどのような影響を与えたかという観点である。
もちろん、会場にそのような解説はない。しかし、そのような見方をしたとき、ウズベクの前衛画家たちがどのようにして、現在も研究が進む未知の傑作群を描き得たのかが、実感として理解できた気がした。これらウズベク・アヴァンギャルドが残した抽象絵画の数々は、現在、ウズベキスタンのカラカルパクスタン共和国の首都ヌクスにある、サヴィツキーの名を冠した国立美術館に収められている。
命がけの収集と伝統の再生
サヴィツキーは、これらのアヴァンギャルド作品を命がけでヌクスに集めた人物である。彼は当初、発掘を中心とする民俗学研究のためにウズベクにやって来たが、すぐにウズベクの装飾文化に魅了され、そこからアヴァンギャルドの守護者となった。元は画家でもあり、ロシア革命によっていかに多くの王朝文化が破壊されたかを身をもって知る人物でもあった。やがてソ連が消滅すると、本展で展示された伝統や手法は再生の時を迎えるが、その間に伝統や民族という一言に収めることのできない、前衛芸術をめぐる命がけの抗争があったことを、本展から偲ぶこともあって良いのではないだろうか。
「中央アジアの手仕事」展は、東京都渋谷区松濤2の14の14、区立松濤美術館(電03・3465・9421)で6月14日まで開催中。月曜休館。



