南極観測船「しらせ」元艦長が語る、氷と雪の世界での任務
地球の成り立ちや気候変動の影響を解明する南極観測。日本から約1万4000キロ離れた氷と雪の世界で、隊員や物資の輸送を担う海上自衛隊の砕氷艦「しらせ」。昨年7月まで第65~66次南極地域観測隊でしらせの艦長を務め、現在は自衛隊福岡地方協力本部で募集課長として自衛官採用を担当する斎藤一城1等海佐(53)に、南極観測の魅力と自衛官採用の現状について聞いた。
海への憧れから南極観測船の艦長へ
斎藤氏は海のない栃木県で生まれ育ち、幼少期から海への漠然とした憧れを抱いていたという。「人が自分の意思で動かせる最大の乗り物である船に興味を持ち、白波を強くかき分ける護衛艦のかっこよさに魅了されました」と語る。防衛大学校を経て幹部候補生学校を卒業後、念願叶って護衛艦乗りとなり、大砲や魚雷などの武器を取り扱うグループの乗組員としてキャリアを積んだ。
護衛艦の艦長を務めた後、異なる世界を体験したいと考え、砕氷艦(南極観測船)への乗艦を希望。これまでにキャリアの半分以上を船の上で過ごし、仕事を通じて33か国を訪れた経験を持つ。
真っ白で音のない世界、そして緊張の連続
しらせには、海上自衛官約180人と観測隊員約80人、食料、建築資材、研究機材などあらゆるものを載せ、約半年間を共に過ごす。海自が観測船の運用を担ってから60年が経過し、「日本の南極事業を根幹から支える存在という自負があります」と斎藤氏は語る。
南極は見渡す限り真っ白で音のない世界で、「人生観が変わるほどの雄大な景色」だという。一方で、大勢の民間隊員の命を預かる責任、暴風圏での荒天航行、大陸から400キロも張り出した氷を砕きながら進む操艦など、護衛艦とは全く異なる緊張と難しさが伴う。
しらせに乗る自衛官たちは、昭和基地にたどり着くまでの間に様々な観測を手伝いながら、搭載するヘリコプターの運航や調理など多様な任務をこなす。任務のバリエーションの豊かさが、この仕事の魅力の一つだと斎藤氏は強調する。
自衛官採用難の現状と課題
安全保障環境が厳しさを増す中、人口減少の影響もあり、自衛官は減り続けている。2023年度の採用人数は計画比で約5割の1万人程度で、2024年度も同規模だったという。「最前線で募集を担当する立場となり、採用状況の厳しさを日々痛感しています」と斎藤氏は語る。
課題として、武器や体力といったイメージが先行し、サイバーや調理部門など幅広い職種があることの認知度やアピールの不足を挙げる。一方、福岡には基地が多く、組織を身近に感じてもらえるアドバンテージもあると指摘する。
南極経験を生かした募集活動へ
「南極は子どもたちにとっても夢のある世界で、自衛隊の職種の幅広さを象徴する分野です」と斎藤氏。毎年10人ほどは南極に行きたくて海上自衛官になったという隊員がいたという。「組織に興味を持ってもらう入り口として自分の経歴を生かすことができればと思っています」
自衛官の仕事には守秘義務があり対外的に明かせないことも多いが、「南極の仕事で話せないことは一つもない」と語る。募集課長就任後、九州産業大学でキャリア教育の講義を担当し、南極観測について話す機会もあった。「こうした場を今後はさらに増やし、幅広い世代にアピールしていきたい」と意欲を見せる。
さいとう・かずき氏の経歴
栃木県市貝町出身。佐世保でミサイル艇「しらたか」の砲雷長などを務め、2016年に護衛艦「まつゆき」艦長となった。しらせには2017年に運用長として初乗艦し、2023~2025年の艦長を含め、これまでに5度南極に行った。福岡は初めての勤務だが、2025年8月の就任以降、趣味のドライブと各地の採用状況の視察を兼ね、すでに全自治体を訪れている。