米国を代表するジャズサックス奏者のソニー・ロリンズさんが25日、95歳で死去した。半世紀以上にわたり偉大な足跡を刻んできたモダンジャズの巨人を、サックス奏者の渡辺貞夫さんが悼んだ。
憧れと畏敬の存在
二つだけ年長のロリンズは、常に僕の憧れと畏敬の念の象徴として、眼前にそびえ立つ存在でした。今、彼とのいくつもの「初めて」が胸によみがえっています。
初めてその音楽に触れたのは、駆け出しだった20歳頃。入り浸っていた東京・有楽町のジャズ喫茶でかかっていた、彼のデビューアルバムは衝撃的でした。中でも「オン・ア・スロー・ボート・トゥ・チャイナ」の、つややかな音色を駆使した包容力に富んだ演奏。幸せな気持ちになりました。
初めて買った一枚
以来、彼の作品をずっと聴いてきました。初めて買ったのは1957年のアルバム「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」です。輸入盤は、当時のサラリーマンの初任給の半分近くに当たる3800円。それでも、「ピアノが入らない変則的な編成で、どんな演奏を聴かせるのだろう」との興味がまさり、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入しました。
ピアノが入らないと、どうしても音が薄くなりがちですが、そのハンデを全く感じさせない豊潤なサックスの音色、共演者たちとのスリリングな掛け合い。すぐに魅了されました。
作曲家としても演奏家としても、いつも歌心を忘れず、明るく生命力に満ちた音楽を生み出す。聴く人を前へと導くその力こそロリンズの神髄で、大きな影響を受けました。
初めてのステージ
60年代前半、初めて彼のステージを目の当たりにしました。場所は、留学先の米国ボストンのライブハウス。開演前に、楽屋から漏れるサックスの音を聴いただけで感激したのを覚えています。
初めての共演
帰国後の68年、ロリンズの東京公演で初共演することになりました。まさに天にも昇るような気持ち。舞台中央に2人並び、4小節ずつのソロを応酬した時のことです。普通は自分のソロが終わると、マウスピースから唇を離してほっと一息つくものですが、僕の番がきた時にチラッと彼に視線をやると、マウスピースを離さずじっと僕を見ている。いつでも反応できる態勢なのです。その集中力が、圧倒的な演奏を生むのだなと頭が下がりました。
打ち合わせなどで話をしたはずなのに、緊張していたのか、ほとんど覚えていません。達人の放つオーラと威厳に、ただ感じ入っていました。
22年後の再共演
22年後、2回目の共演が東京で実現しました。海外での活動も軌道に乗り、前より成長した自分をぶつけたい。そう張り切って本番に臨みました。少し肩に力が入っていたかもしれませんが、「セント・トーマス」では、ともに楽しい演奏ができたと感じた。次はもっと――。残念ながら、「その時」は幻となってしまいました。
心の師
僕と同じアルトサックスのチャーリー・パーカーは、駆け出し時代からお手本とした心の師。それと並び立つ、テナーのロリンズ。双璧に少しでも近づこうとしたのが、僕のジャズ人生でもありました。天国でも、あの歓喜に満ちた素敵な音色を響かせてほしいと祈っています。
必聴の4枚
ソニー・ロリンズの数ある名盤の中から、ジャズ評論家の小川隆夫さんが必聴の4枚を選んだ。
- 「サキソフォン・コロッサス」(1956年録音)――ワンホーンカルテットによる名盤。収録曲「セント・トーマス」は勢いと旋律の美しさを兼ね備える。
- 「ウェイ・アウト・ウエスト」(1957年録音)――テナーサックス、ベース、ドラムスのトリオ編成。ピアノなしで研ぎ澄まされた演奏。
- 「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」(1957年録音)――ライブ盤。バラード「言い出しかねて」は悠然と、「チュニジアの夜」は豪快に。
- 「橋」(1962年録音)――約2年の隠遁生活を経た作品。ギターのジム・ホールが参加し、ロングフレーズを駆使したモダンな演奏。



