浜松市動物園の「坂道問題」に光明 電動カート導入でアクセシビリティ向上
静岡県浜松市中央区にある浜松市動物園で、長年にわたり来園者を悩ませてきた「きつい坂」の問題に、画期的な解決策が登場しました。2024年3月30日から、地元企業の寄付により電動カート2台が導入され、誰でも無料で利用できるようになりました。これにより、子連れ家族や高齢者、障害者など、これまで坂道が負担で来園をためらっていた層のアクセシビリティが大幅に向上すると期待されています。
移転以来の課題 高低差約25メートルの坂道
浜松市動物園は1950年に県内初の動物園として浜松城公園付近に開園し、1983年に現在の中央区舘山寺町の山の斜面に移転しました。この移転に伴い、園内には入り口付近から続く高低差約25メートルの坂道が形成され、これが多くの来園者にとって大きな負担となっていました。
斎藤弘泰園長は「最初の坂を見て、上まで行くことを諦めてしまう人も少なくありませんでした。『坂がきつい』という指摘はこれまで数多くいただいてきました」と、積年の課題を説明します。特にベビーカーを押す保護者や高齢者、障害のある方々にとって、動物園を楽しむことが難しい状況が続いていました。
記者体験 ベビーカー押しは「トレーニング」同然
実際に3月中旬、生後8カ月の息子を連れて動物園を訪れた記者の体験では、入り口をくぐってすぐに延々と続く坂道を見上げ、心が折れそうになったといいます。息子を乗せた総重量10キロ超のベビーカーを前傾姿勢で押し続け、坂が終わる園内中央付近まで約15分。春の陽気の中、汗だくになりながらの移動は「もはやトレーニングだった」と振り返ります。
電動カート導入 デザインも親子に人気
導入された電動カートはスタッフが運転し、入り口付近を発着点に園内3カ所のエリアを巡ります。年齢制限はなく、ベビーカーや車いすを乗せたまま移動できるのが特徴です。カートにはトラとシマウマのデザインがラッピングされ、運行初日から多くの親子が記念撮影を楽しむなど、早くも園の新たな名物になりつつあります。
斎藤園長は「アクティビティというよりは移動手段としての運用が前提ですが、乗ることも楽しんでほしい」と語ります。現在は歩道とルートが重なっているため安全に配慮した運行ですが、市は本年度中にカート専用車道の整備に向けた設計業務に取りかかる予定です。
入場者数減少に歯止めを 年間30万人台からの回復へ
浜松市動物園の入場者数は、移転直後の1980年代には年間110万人以上を記録していましたが、その後は年々減少し、近年は30万人台に落ち込んでいます。特に夏場は酷暑の影響で大きく落ち込む傾向にあり、園側は電動カートによる負担軽減が入場者数回復の起爆剤になると期待を寄せています。
利用者の声 「夏も気兼ねなく行ける」
運行初日に3歳と1歳の子どもと一緒にカートを利用した掛川市の会社員、豊島宏恵さん(40)は「妊娠中に子どもを連れて行ったときは、坂を上り切った瞬間に帰りたいと思いました」と当時を振り返ります。「ママ友の間でも、いつも浜松市動物園は『行くには気合がいる』という話になっていました。カートは乗り心地も良く、これで夏も気兼ねなく行くことができる」と喜びの声を上げました。
取材後記 心地よい春風と眺望を楽しめる新体験
運行初日の試乗会で実際に電動カートに乗ってみた記者は、ゆっくりと進む中で心地よい春風を感じ、快適そのものだったと報告します。高低差があるからこそ道中の眺めも良く、隣接するはままつフラワーパークに咲く花々も同時に楽しめたといいます。見た目もかわいらしい電動カートが、近い将来、園の名物になる日も遠くないかもしれません。今後の口コミの変化にも注目したいところです。
浜松市動物園の電動カート導入は、単なる移動手段の提供にとどまらず、すべての来園者が平等に動物園を楽しめる環境づくりへの大きな一歩と言えるでしょう。これまで坂道を理由に来園を断念していた方々にも、再び足を運んでいただけるきっかけとなることが期待されます。



