天橋立で知られる京都府宮津市に、新鮮な魚介類を短時間だしに漬け、うまみを引き出す「一刻干し」という伝統的な調理法がある。この一刻干しを味わえる名店「カネマスの七輪焼き」が、一昨年の秋に店主の急逝で閉店した。しかし、地域を活性化したいと願う隣町の若者たちが立ち上がり、店の継承・復活を実現させた。
一刻干しとは何か
宮津の一刻干しは、保存を目的とした一般的な干物とは異なる。「余計な水分を素早く飛ばし、うまみをぎゅっと凝縮させる。新鮮な魚介類をさらに美味しくするために、宮津の人々が編み出した方法です」と語るのは、復活を主導した京都府与謝野町の会社「京都丹後企画」代表、浜田祐太さん(29)。
若き起業家の情熱
与謝野町で育った浜田さんは、宮津市内の高校に通っていた。帰り道、店の前を通りかかると、一刻干しを焼く香ばしい匂いが漂い、和気あいあいと酒を酌み交わす人々の姿が見えた。「大人の世界にあこがれました」と振り返る。
大学では政治学を専攻。人口減少や過疎化が進む故郷を元気にしたいと、在学中の2019年に「ローカルフラッグ」を起業。地域の旗振り役になる願いを込めた。その後、与謝野町で始まったホップ栽培を活かし、クラフトビール醸造事業に乗り出し、京都丹後鉄道与謝野駅前に自社醸造所兼飲食店を開業。さらに事業を丹後半島全域に広げるため、東京のまちづくり会社と共同出資で「京都丹後企画」を設立した。
名店復活への道のり
起業後、得意先の接待などで利用していたのが「カネマスの七輪焼き」だった。七輪の赤い炎を眺めながら旬の魚介類の焼き上がりを待つ時間は、「たき火を囲むような感覚で、話が弾み、商談も不思議とまとまりました」と浜田さん。
しかし、2024年秋、40代の店主が病で急逝。後継者はおらず、店は閉鎖された。浜田さんは店主の父親に直談判し、承諾を得て店の継承に成功。復活に向け、一刻干しの製法を一から学ぶことから始めた。
新たな店長の挑戦
新しい店長には、海上自衛隊で調理経験がある井関和樹さん(31)が就任。店に残されたメモをもとに試作を重ね、漬け込むだしは昆布とシイタケでとり、宮津の老舗・飯尾醸造の「富士酢」を隠し味に加える。魚種によって塩分濃度を変え、漬け時間は1分から20分、干し時間は40分から2時間と細かく調整する。
常連客を探し出し、試食してもらい改良を重ねた結果、「カネマスの味になった」と太鼓判を押された。
復活した味と今後の展望
浜田さんは「干物でありながら干物ではないのが一刻干し。ジューシーでふっくらしていて、地元・宮津産のオリーブオイルと塩をかけると、干物の概念が変わります」と自信を見せる。
当面はコースのみで、昼は3000円、夜は4500円(ともに税込み)。10席のみのため、予約(050・8896・2509)が推奨される。復活した名店は、宮津湾を目の前に構え、再び多くの人々に愛される場所となるだろう。



