住宅街を歩いていると、突然、見事なバラの風景が現れた。住宅展示場の一角に広がる横浜イングリッシュガーデン(横浜市西区)は例年、春バラの開花シーズンに大勢の観光客が押し寄せる。バラの育種を手がける河合伸志(58)=横浜市西区=は、2012年から、スーパーバイザーとして植栽の手入れや演出を監修。NHK「趣味の園芸」などのテレビ番組や雑誌にもたびたび出演し、バラの魅力を広めている。
バラの多様性に魅せられて
バラの育種家として、第一線で活躍してきた河合。「禅(ぜん)ローズ」の名で知られる品種群の一部など、和の雰囲気をまとい、ひとことで「○○色」と言い表せないニュアンスカラーが魅力の花々を生み出してきた。「バラの魅力は、その多様性にある」と話す。「色も樹形も多種多様。華やかで香りもあって、これだけ多様性がある花は他にない」
中でも、代表作の一つに数えるのが、淡いピンク色で半八重の中輪花を咲かせるつるバラ「伽羅奢(がらしゃ)」だ。
「伽羅奢」誕生の秘話
「伽羅奢」は、多忙な時期に草が生い茂ってしまった苗置き場で見つけたという。「雑草をかき分けた瞬間、桜色の花が現れた」。とっさに、戦国時代を生きた女性、細川ガラシャ(1563~1600年)の辞世の句「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」が頭をよぎった。「大好きなサクラの古木のイメージとも重なり、伽羅奢と名付けた」
育種家への道のり
埼玉県与野(現さいたま)市出身。草花を愛した祖父の影響で「物心付いた時には、好き勝手に庭を改造していた」。ただ、園芸が趣味であることは周囲に黙っていた。「庭いじりは『老人の趣味』という時代。子どもらしくないからと」。千葉大大学院を卒業後、大手種苗会社に勤務した。転機となったのは、とある観光庭園の庭を見たこと。植物の草姿や配色の組み合わせの妙で、見る人を魅了する庭だった。これまで、自分の中で「単に植物を育てる場所」だった庭が、風景を演出し、植物たちを輝かせる「舞台のような場所」へと認識が改まった。
イベントプロデュース会社に転職。2004年、浜松市で「しずおか国際園芸博覧会」の会場整備に携わった。造園業者の中には、植物を単なる素材として扱う人もいた。「造園家にとっての植物は空間をつくる材料でしかない。でも、自分は逆。植物を美しく見せるために空間を整える」
現在は、設計から携わったあやせローズガーデン(綾瀬市)や、中之条ガーデンズ(群馬県中之条町)のバラ園を監修。植栽では、「設計図は上から見るけれど、人は地面に立って庭を見る」との考えから「人の目線」を大切にしている。
未来への展望
今、山梨県北杜市に土地を求め、念願だった自身の庭づくりにも取り組んでいる。最初に植えたバラは、意外にも控えめな花のカラフトイバラ。「宿根草と合わせるとき、原種バラは本当に景色になじむんです」。「園芸に終わりはない」が信条。花々が輝く究極の景色を目指して、探求は続く。(敬称略、吉田拓海)
2027年に横浜市で開催される国際園芸博覧会を前に、植物好きの記者が県ゆかりの「花人」の足跡を追います(不定期連載)。
河合伸志プロフィール
小学生のとき、ラベンダー色のバラ「ブルームーン」に感動し、バラに興味を持つ。ベージュがかった紫色の「まほろば」や、ピンクにブラウンが交じった複雑な色彩が特徴の「くるみ」など。世に送り出したバラは、100種以上。テレビやラジオへの出演や、バラの講習会への登壇、書籍の執筆にも取り組む。



