アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の視聴順を巡る議論が数学の未解決問題に歴史的進展をもたらした話
「ハルヒ問題」が数学の未解決問題に歴史的進展

アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の視聴順を巡るネット上の議論が、数学の未解決問題に歴史的な進展をもたらした。4chanの匿名ユーザー、SF作家、そして数学者たちの考えが結びつき、長年未解決だった「最小超置換問題」の正体に迫った話を紹介する。

「最小超置換問題」とは

「1、2、3」という3つの数字をすべて1回ずつ使った並べ方は、「123」「132」「213」「231」「312」「321」の6通りある。これらすべてを単純に横に並べると18文字(「123132213231312321」)になる。しかし、文字列の一部を重ねることで、長さを大幅に節約できる。

例えば、「1、2」の2つの数字なら、並べ方は「12」と「21」の2通りだが、真ん中の「2」を重ねて「121」とすれば、3文字の中に両方のパターンを含めることができる。このように、考えうるすべての並び順(順列)を、末尾と先頭の文字を重ね合わせながら最も短く詰め込んだ文字列のことを「超順列」(スーパーパーミュテーション)あるいは「超置換」と呼ぶ。

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先ほどの3つの数字の場合は「123121321」となり、9文字で全6パターンを網羅できる。数字の数が増えたとき、この最も圧縮された文字列の長さがいくつになるのかを解き明かすテーマは「最小超置換問題」と呼ばれる。

「ハルヒ問題」の始まり

この純粋な数学の問題が、思わぬ形でインターネット上のサブカルチャーと結びついた。2006年に放送されたテレビアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」だ。このアニメは全14話からなるが、テレビ放送時には時系列がバラバラにシャッフルされた順序で放送された。そのため、ファンの間ではどの順番で見るのが一番正しいのかという議論が絶えなかった。

そして2011年、海外の匿名掲示板「4chan」で、ある名もなき疑問を投げかける者が現れた。すべての考えうる順番で全14話を網羅して視聴するには、最低何話見ればいいのか。これこそが、数学界で「ハルヒ問題」と呼ばれるようになった難問の始まりである。

匿名ユーザーによる下限の証明

全14話を並べ替える組み合わせは、14の階乗(14×13×12×…×1)、つまり約871億(87,178,291,200)通りも存在する。すべてを気合で1回ずつ見れば14話×871億で約1兆2200億(1,220,496,076,800)話を見なければならない。

しかし、超順列の重ね合わせのテクニックを使えば、直前の視聴履歴を次の順序の一部として使い回すことができるため、視聴回数を大幅に圧縮できる。とはいえ、その具体的な最短回数は誰にもわからなかった。

そこへ現れたのが、あの匿名ユーザーである。この匿名ユーザーは、順列の重なり具合をモデル化し、無駄なくパターンを重ねていったとしてもどうしてもこれ以上は短縮できないという限界値(下限)を示す論証を投稿した。

下限の証明に使われた論証

この論証をハルヒ問題に当てはめると、全パターンを網羅するために、どれだけ効率よくエピソードを重ね合わせても、最低でも938億8431万3611話を連続で見続けなければならないことが明らかになった。

当初、この匿名ユーザーの書き込みはアニメファン同士の高度な言葉遊びとして片付けられ、大きく注目されないまま埋もれていた。

転機と学術論文への発展

転機が訪れたのは18年。SF作家グレッグ・イーガンが、超順列問題の上限を大幅に押し下げる新たな構成法を発表した。イーガンの突破口が、長らく忘れられていた11年の4chan投稿に再び光を当てることになる。論証は本当に正しいのではないかと考えた数学者らが内容を精査し、匿名ユーザーの議論を数学の形へと整理した。

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こうして同年、学術論文「A lower bound on the length of the shortest superpattern」が公開された。第一著者名には、「Anonymous 4chan Poster」と記されている。

イーガンの上限と匿名ユーザーの下限

イーガンの上限と匿名ユーザーの下限は、驚くほど近い値で食い合っていた。n=14、すなわちハルヒ問題で言えば、上限は939億2423万411話、下限は938億8431万3611話。その差はわずか約4000万話、真の答えはこの範囲のどこかに隠されていることになる。

これらの一連の動きから得られた知見は、21年に発表された論文「Containing All Permutations」に整理されている。